医学生投資家あずまのメモ帳。

医学生が気になったことを適当にまとめるブログです。

敗血症性ショックで、ノルアドレナリンが第一選択になる理由

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こんにちは、あずまです。

 

敗血症性ショックでノルアドレナリンが第一選択になる理由をまとめてみました。

 

結構長いです。 

 

ざっくりと結論をかくと、

「血管拡張が生じている敗血症性ショックには、α作用とβ作用のある循環作動薬が適している。α作用とβ作用のある血管作動薬の中ではノルアドレナリンが良い。」

です。

 

もちろん、事前に輸液をする必要があったり、その他にも一人ひとりに合わせて薬の使い分けはあるとは思いますが、基本的にはこんな感じでいいと思います。

 

 

 

ショックとは?

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まずは日本救急医学会のホームページから、ショックの定義を見てみます。

  

  • 生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果,重要臓器の血流が維持できなくなり,細胞の代謝障害や臓器障害が起こり,生命の危機にいたる急性の症候群。
  • 収縮期血圧90mmHg以下の低下を指標とすることが多い。
  • 典型的には交感神経系の緊張により,頻脈,顔面蒼白,冷汗などの症状をともなう。
  • 近年,循環障害の要因による新しいショックの分類が用いられるようになり以下の4つに大別される。

 

  1. 循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock): 出血,脱水,腹膜炎,熱傷など
  2. 血液分布異常性ショック(distributive shock): アナフィラキシー,脊髄損傷,敗血症など
  3. 心原性ショック(cardiogenic shock): 心筋梗塞,弁膜症,重症不整脈,心筋症,心筋炎など
  4. 心外閉塞・拘束性ショック(obstructive shock): 肺塞栓,心タンポナーデ,緊張性気胸など

  

 

ショックと聞くと、「収縮期血圧が90mmHg以下」と思われがちですがそうではありません。

この定義を見てわかる通り、 重要臓器の血流が維持できなくなることが大切です。

普段からから血圧が低めの人には収縮期血圧が100mmHgを切ることもあります。その人がたまたま90mmHgより低いからといって、治療する必要はなさそうですよね。

 

つまりショックは

「臓器の血流が維持できなくなり、体に異常が起きる状態」であり、

その目安となるのが「収縮期血圧が90mmHg以下」です。

 

4つに分類されますが、そこは割愛します。

敗血症性ショックは、血液分布異常性ショックに分類されます。 

 

 

 

血圧とは?

敗血症性ショックに入る前に、血圧についてまとめます。

(参考:前負荷 日本救急医学会・医学用語解説集

 

血圧は、基本的に心拍出量と体血管抵抗によって規定されます。

 

「血圧 = 心拍出量 × 体血管抵抗」

 

そして、「心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数」です。

1回拍出量は①前負荷、②後負荷、③心収縮力によって規定されます。

これを考慮すると

 

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗」

となります。

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前負荷

前負荷心室の拡張末期容積のこと。Flank-Starlingの法則で明らかにされたように、心筋は長く伸ばしてからの方が収縮力が強くなります。静脈還流量が増え、心室に多くの血液が入ると心筋が引き伸ばされ、その分強く収縮する(血圧が上がる)ようになります。

 

基本的に、前負荷が大きいと心拍出量が上がります。

(水道の蛇口を緩めるとたくさん水が出るのと同じです。)

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後負荷

後負荷心筋が収縮されるときに直面する力のこと。左室にとっては大動脈圧が後負荷に当たります。末梢血管の抵抗や、動脈硬化によって変わります。

 

基本的に、後負荷が小さいと心拍出量が上がります。

(ホースの先を緩めた方がたくさん水が出るのと同じです。)

 

 

 

敗血症性ショックとは?

 

敗血症性ショックの病態をざっくりまとめると、

  1. 末梢血管が拡張する⇨体血管抵抗が下がる
  2. 血管透過性が亢進し、血管外に水分が移動する⇨循環血液量が低下する⇨前負荷が下がる

です。

 

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↓,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↓

 

血圧を規定する因子がダブルパンチで障害されます。

 

 

敗血症性ショックの定義と診断基準を、日本版敗血症診療ガイドライン 2016から引用します。

  • 定義:「死亡率を増加させる可能性のある重篤な循環,細胞,代謝の異常を有する敗血症のサブセット」
  • 診断基準:適切な輸液負荷にもかかわらず,平均血圧 ≧ 65 mmHgを維持するために循環作動薬を必要とし,かつ血清乳酸値 > 2 mmol/L (18 mg/dL) を認める。

 

 

①まずは適切な輸液負荷をする。

②それにもかかわらず、以下2つを両方とも満たす。

  • 平均血圧 ≧ 65 mmHgを維持するために循環作動薬を必要とする
  • 血清乳酸値 > 2 mmol/L (18 mg/dL) を認める

 

①まずは適切な輸液負荷。

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輸液負荷をすると、前負荷をあげることになります。

 

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↓,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↓

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↑,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↓

 

輸液負荷をして前負荷をあげると血圧は上がりますが、体血管抵抗は下がったままです。

 

 

②血圧を維持するために循環作動薬を必要として、かつ乳酸値が高い。

循環作動薬がないと血圧が維持できない。

そして、乳酸値が高い。(末梢組織が低酸素状態になると、嫌気性解糖が回って乳酸が多く産生されることによる。)

 

循環作動薬(カテコラミンなど)で末梢血管を収縮させ、体血管抵抗をあげることで血圧を維持することができます。

 

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↑,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↓

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↑,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↑

 

乳酸値が高いことは、末梢循環が不良であることを示しています。

 

細胞に酸素が十分に行き渡ると解糖系+電子伝達系で有酸素的にATPを作るため、乳酸の産生は少ないです。(下図の右側の回路)

 

細胞に酸素が十分に行き渡らないと、解糖系をガンガン回してATPを作ることになります。嫌気性解糖では乳酸がたくさん作られます。(下図の左側の回路)

 

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参考:http://www.1ginzaclinic.com/DCA/DCA.html

 

循環作動薬とは? 

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代表的な循環作動薬には

フェニレフリン、ノルアドレナリン、ドパミン、アドレナリン、ドブタミンがあります。

 

これらの循環作動薬は、α作用やβ作用を増強させる働きがあります。

 

※α作用とβ作用の確認

  • α1:血管収縮
  • β1:心筋収縮力増加、心拍数増加

 

循環作動薬は、それぞれにα作用とβ作用の割合が決まっています。

α作用のみしか示さないものもあれば、両方の作用を示すものもあります。

 

主な循環作動薬のα作用とβ作用の割合は、だいたいこんな感じのイメージになります。

 

フェニレフリン:α1作用のみ

ノルアドレナリン:α1作用>β1作用

ドパミン:α1作用=β1作用

アドレナリン:α1作用<β1作用

ドブタミン:β1作用のみ

 

 

敗血症性ショックにはノルアドレナリンが第一選択になります。

 

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↓,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↓

 

敗血症性ショックでは、前負荷と体血管抵抗が低下しています。

輸液で前負荷を上げることができました。

(※輸液をしてから循環作動薬をする。血管が干からびてるのに心臓を頑張らせたり血管を締めても意味なし。)

 

「血圧 = { 1回拍出量(前負荷↑,後負荷,心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↓

 

 

次は体血管抵抗です。

循環作動薬を使って体血管抵抗をあげるには、どの薬がいいでしょうか。

 

α作用のみのフェニレフリンでは不十分です。

 

α刺激で血管を収縮させれば、体血管抵抗をあげることができます。

ではα作用のみを示すフェニレフリンがいいでしょうか?

 

そうとは限りません。

フェニレフリンのα作用で血管を収縮させれば体血管抵抗をあげることができますが、同時に血管を収縮させることで後負荷をあげてしまいます。後負荷をあげると、1回心拍出量が下がってしまいます。

(ホースの先端を絞ると、出てくる水が減ってしまう。)

 

「血圧 ={ 1回拍出量↓(前負荷↑後負荷↑心収縮力)× 心拍数 }× 体血管抵抗↑

 

α作用のみでは不十分そうですね。

 

α作用に加えて、β作用もある方が良さそうです。 

 

1回拍出量を保ちつつ体血管抵抗をあげる方が効果的です。

そこで、α作用を持ちつつもある程度は心収縮力や心拍数(β1作用)をあげた方が良さそうです。

 

α作用とβ作用の両方を持ったもので考えてみます。

 

α作用とβ作用を両方持つものとして、

  • ノルアドレナリン:α1作用>β1作用
  • ドパミン:α1作用=β1作用
  • アドレナリン:α1作用<β1作用

があります。

 

あくまで血管収縮のα作用がメインなのでアドレナリンは除外して、ノルアドレナリンとドパミンとします。

 

 

輸液をして前負荷を上げたうえで、

α1作用で血管を収縮させ体血管抵抗を上げ、

β1作用で心収縮力、心拍数を上げる。

 

「血圧 ={ 1回拍出量(前負荷↑後負荷↑心収縮力↑× 心拍数↑ }× 体血管抵抗↑

 

 

いい感じですね。

 

ということで、α作用とβ作用をいい感じの割合で持つものが敗血症性ショックに対する循環作動薬として適していると考えられます。

具体的には、ノルアドレナリンとドパミンです。

 

ドパミン VS ノルアドレナリン

 

この2つのうち、どちらが優れているのでしょうか?

それはノルアドレナリンです。

 

以前はドパミン派とノルアドレナリン派がいたようですが論文で決着がつきました。

論文でドパミンよりもノルアドレナリンの方が死亡率が低く、不整脈の発生が少ないことが示されたからです。

参考:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0907118

 

 

これを受けて、日本のガイドラインでは

敗血症性ショックに対してドパミンでなくノルアドレナリンを第一選択としています。

 

 

 

まとめ

 

敗血症性ショックは

  1. 末梢血管が拡張する⇨体血管抵抗が下がる
  2. 血管透過性が亢進し、血管外に水分が移動する⇨循環血液量が低下する⇨前負荷が下がる

のダブルパンチで血圧が下がっている。

 

まずは輸液で前負荷を上げる。

 

輸液をしたうえで循環作動薬を使って体血管抵抗をあげる⇨血圧をあげる。

 

ただしα1作用のみでは1回心拍出量が下がってしまうので、ある程度はβ1作用が含まれているものが良い。

合いそうなのは、ドパミンかノルアドレナリンの2つ。

 

論文で、ドパミン<ノルアドレナリンが示された。

 

 

 

 

 

 

 

こんなに長い記事になるとは思いませんでした。

お疲れ様でした。